おねえさんどんな人なの、と問えば、キルアからはごく簡潔な答えが返ってきた。
「変なやつ」
ゴンはそれにどう答えるべきか決めかねたが、すぐさまキルアが矢継ぎ早に言葉をまくしたて始めたので、それは杞憂に終わった。
「だってさ、第一印象からして最悪なんだぜ。ある日突然、親父が傷だらけで帰ってきたんだけどさ、それだけでも驚きなのに、肩には血だらけでぼろぼろの人間担いでやがんの。それがまるで小麦粉の袋担ぐみたいだったから、最初人間だってわかなくてさ、なんかのゴミかと思ったんだよ。死んでんのかと思えばわずかに肩が上下してたんだよな、これが。それなにって俺がきいたら、イルミの嫁だ、なんてあっさり言うんだぜ。なんでも、親父をねらって襲ってきた暗殺者で、返り討ちにしてやったんだって。自分でめいっぱい痛めつけた女指して息子の嫁にするだとか、考えらんないだろ、普通。兄貴は兄貴で、え、俺の?キルアのじゃなくて?なんて淡々としてんの。物かよ!って感じだろ。まるでそこの店で嫁買ってきましたみたいな顔してんだぜ。テトラはテトラで、あ、どうも、よろしくお願いシマス、なんて息絶え絶えで途中血ィ吐きながら言うの。間違いなくあいつアホだよ、なぁ?ゴンもそう思うだろ?お袋は涙流して喜んでさ、喜んでる理由ってのがうけるんだぜ。夫にこれだけの深手を負わせられる女の子が息子の嫁になってくれて嬉しい、ってさ。あいつらまじありえねーよ!ほんとあそこから逃げ出せてよかったぜ」
ゴンはただ黙って頷きながらきいていればよかった。途中、ふと、なんの証拠もなく、あの人はキルアの初恋の人だったのではないかという考えが心をよぎったが、口に出しては言わなかった。なぜかというと、自分の出番を告げるアナウンスが響き渡ったからである。ゴンはキルアにひらひらと手を振って、汗臭い控え室をあとにした。