おまえのスタンドはリスクがでかすぎる、といつだったか言われた。たしかにそうかもしれない、と口の中にたまった血の塊を吐き出しながら考える。しかし彼の言葉を戦いの前に思い出すのはひどく困難なことだった。だからいつだって満身創痍になってから反省のために持ち出される文章に過ぎないのだ。同じ過ちを繰り返すな、なんて警句もまた然り。
「おまえのスタンドは危なっかしすぎるんだよ」
清々しく晴れ渡った青空の真ん中に、ぬっとミスタが現れる。わたしは地面に大の字になって横たわっていたので、ミスタは太陽光を遮る形になった。
「俺に任せときゃ、こんなことにならなかったのによ」
「ミスタ、今朝は面倒くさいってぼやいてたのに」
「あのな、この世界じゃ、相手のスタンドの正体もわからないまま逝っちまう奴がほとんどなんだぜ。たかがこんな野郎のために命はる気かよ、おまえは」
その方がよっぽど面倒くさいぜ、とミスタは喚く。わたしはすこしだけ笑って(笑った瞬間に再び血の味が口腔内で広がった)、しばらく頷いてさえいればその場なんて簡単にやり過ごせた。
わたしのスタンドはリスクが大きいが、ある意味最強でもある、と彼は時を同じくして言った。なにせ、相手のスタンドのすべてをそっくりそのまま吸収し、コピーできるのだから。それにはもちろんいくらかの厳しい条件がある。その全てはわたしとわたしのチームのメンバーだけが知っている。
自分の能力に足をすくわれるところなら容易に想像できた。決して驕っているわけではないが、別にそれでもかまわないと思う。石のように硬い意思で決意したところで、敵を前にすれば瞬く間にもろく崩れ去るのだろうし。結局はその場その場でなるようにしかならない。やりたいようにしかできない。
ほら、とミスタが手を差し出す。一瞬何のことかわからなくて、それがわたしが起き上がるのを助けるためのものだと気づくのにたっぷり10秒はかかった。
ミスタは明らかにむっとした顔を作った。わたしがミスタの手に指一本触れずに起き上がり、服の土埃を払い始めたからだった。
「かわいくねぇ女」
ミスタは、かつて自分がわたしがチームに加わるのを、わたしが女であるという理由で猛反対したことなどおくびにも出さずに悪態をついた。別に指摘しなかったのは、そこに矛盾がないからだ。ミスタのわたしを見る目はいつもまっすぐだった。不器用なやさしさに支配されて行動する者のぎこちなさ。わたしはミスタが自分で感じているほど、ミスタを嫌いなわけではなかった。