ブリーフィングルームで最終ミーティングをしている最中、合間合間に的確な意見をはさみながらも、彼女は普段と変わらないように見えた。他の奴らはひどく緊張していたので指摘したりする奴は誰ひとりとしていなかった。誰もがみな、この地が最終決戦となることを理解していた。補充要員としてやってきた3人のパイロットも、唇を引き結びながらホーキンス隊長の作戦を飲み下していた。何気なく見た彼女はガラス窓の向こうの宙に視線をやっているようにみえた。注意を払わなければ見落としてしまうほどのさりげなさだった。つまり俺は彼女に注意を払っていた。だからといって何かを見つけ出そうとしていたわけではない。そこに何もないことなら初めからわかっていた。
何人かと言葉を交わし、コクピットに乗り込む。計器のいくつかをいじっていたところでふいに画面が割れ、俺は素直に驚いた。プライベートモードで繋がれた、その回線は紛れもなくテトラだった。
俺は手の動きを止めた。彼女も動いていなかった。代わりに俺の名前を呼んだ。
「わたしの部屋にあるもの、全部ハイネに持って行ってもらいたいの」
俺は吹き出した。彼女は何の感情もなくこちらを見ていた。
「それなんて言うか知ってるか?フラグっていうんだぜ。やめろよ、そういうの。言いたいことあんなら全部終わってきくぜ」
まさか手紙なんて残してたりしねえよなあ。俺の軽口にも彼女は答えない。
足元が大きく揺れ、機体がカタパルトに向かって動き出したことを告げる。画面の向こう側で静止画像のように動かない彼女は、それでもいつもの彼女だった。
「もっとなんか他に言うことないの?」
「ないわ」
「ひでー。ま、言われたら言われたでそれもフラグになっちまうし、難しいところだな」
「ハイネは?」
「は?」
「ハイネはわたしに、何か言うことがある?」
彼女は、じ、とこちらを見つめてきている。彼女の瞳は、彼女の質問の内容よりもはるかに俺を混乱させた。なぜだか理由はわからなかった。とっさに画面に手を伸ばす。からからの喉を開こうとしたところで、画面が割れた。代わりに四角く切り取られた宇宙の空間が見える。『進路オールグリーン。ハイネ・ヴェステンフルス、ブレイズザクファントム、発進してください』
俺はため息をついて操縦桿を握った。