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俺はサークルには入らず、いくつかバイトをかけもちではじめ、それなりに単位をとり、そのうちいくつかは落とした。というか切った。
伊作は夏のはじめに同級生に告白されて付き合いだしたが、その季節が終わる頃にはあっさりとふられていた。他に好きな人ができたのだという。拍手を送りたくなるほど見事な乗り換えだった。
「見事な手管だったわ」
後に花村はしみじみと語った。同じ女として見習いたい、と腕を組んでうなりすらした(そのときすでに彼女は俺たちと自然につるむのになんの疑問も抱かなくなっていた)。伊作は昔からそういう女にひっかかりやすいのだ。それを俺はよく知っている。だが奴の名誉のためにも花村には伏せておいてやった。
「なんにせよ、仲間ができたのは嬉しいことだわ」
ふふふ、と花村は笑う。彼女もまた、目を背けたくなるほど悲惨な片思いの真っ最中なのだった。相手はサークルの先輩だそうだ。
そんなわけで秋から冬にかけては傷心の伊作を抱えて居酒屋の暖簾をくぐることがことさら重なった。クリスマスも俺の部屋で鍋をかこみ、缶ビールを干しつつしょっぱく過ごしたりなどした。
そうして他愛もないことに顔を見合わせて笑った。しょうのないことで涙を流したりもした。幸せに触れるのに手を伸ばす必要なんかなかった。なのに花村の俺をみる視線に光が混じることはなかった。代わりに悲劇的な声色で悲痛な自分の恋愛について語った。きっと世界が哀しみであふれているからなのだろう。目を瞑ろうとした俺のあやまちか、それとも完璧を望んだあいつの強欲か。
どちらでもいい、と思った。もうやめにしたのだ。
俺たちは今、ここにいる。
 
 
 
 
 
 

いつしかふたたび俺たちが出会った春になっていた。新入生の中には初対面の見知った顔がちらほら見受けられたが、別に声もかけなかった。伊作ももう何も言わなかった。そもそもあの夢を見ることすら今では珍しいことになっていた。
一方で悲恋に身を焼いていた花村は、最近ようやく別の恋を見つけたという。しかしそちらもやはり悲恋なのだそうだ。学習しない奴なのだ。
「まったく恋愛対象として見られてないの」
それでも頬を染めてどこか嬉しそうに報告する花村は妙に可愛かったりするものだから、これが恋する乙女の力かと、俺はもう肩を落とすしかなかった。夜7時。俺の部屋。いつもの飲み。隣に伊作がいたのでうんざりとした視線を送ったりもした。もちろん花村には気づかれないように。
「今度はふたりもよく知っている人よ」
ふふふ、と笑う。俺は伊作の苦笑した顔を見る。視界の端に映ったテレビは相変わらず世界の悲惨な出来事で満ちている。
 
 
 
 
 
 
 
 
企画「reincarnation」さまへ提出させて頂いた作品です。
はるたかさん、素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!