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コクピットから出てすぐに彼女の姿を探したのは、もはや習慣のようなものだった。彼女が機械いじりを好きでよかったと思ったのはこれが初めてかもしれない。隅っこのジンの足元に座りこんで端末をうつ彼女を認めると、俺はそちらにむかって床を蹴った。俺の機体がハンガーに収納されるまでの一部始終を見ていたくせに、手をあげるどころか視線すらよこさない。
「毎日毎日、飽きもせずよくやるよな」
開口一番に棘のあることを言ってしまうのも仕方のないことだった。いつものように減らず口のひとつやふたつ返ってくるだろうと身構えていると、彼女はふっと笑った。笑った?テトラが?驚いていると、そうだな、そうかもしれない、と注意していなければきき落してしまいそうな声で呟く。
「ミゲルは?」
居心地の悪さを隠すようにどうでもいい質問を引っ張り出すと、彼女は意外そうに首を傾げる。
「帰った」
「は?帰った?」
「昨日ね。なんでもクルーゼ隊の方でなにか大きな作戦が始まるらしくて、急遽呼びもどされたのよ」
「なんつーか、本当に急だな」
結局一度も出撃しなかったんじゃないのか、あいつは。
ぼんやりと言ったところで違和感に注意をとられた。
「なにそれ」
「これ?」
彼女の端末には奇妙なロゴシールが貼られているのだった。
「名誉会員に任命されたよ」
「はあ?」
「ジンに貼れと言われたけど、嫌だと言ったらこれを押しつけられた」
かっこいいと思っているのかな、と淡々と呟く。とりあえず彼女の雰囲気には最高に似合っていない。
「そういえば、ミゲルのジンがオレンジにカラーリングされている理由、ハイネは知っている?」
「・・・さあ」
「あなたに憧れてやったらしい」
「・・・はあ?」
今日は幾度となく驚くか、それかひたすら驚き続ける日らしい。困惑する俺を見る彼女の顔すら、どことなく楽しそうで。
手を伸ばしかけて、すんでのところでその傲慢さに気がついて押しとどまった。彼女の目は俺の定まらない右手を見ていたけれど、何も言わなかった。
普段から反応の薄い彼女のこと、なぜこいつなんだろうとは今でもよく考える。特別誰かでなければいけなかったわけではない気もする。ただ気づいたら隣に彼女がいて、気づいたらかけがえのないものになっていた。他人になんて詰れようと、それが彼女を振り回す俺の幼稚な真実だった。浅はかで傲慢で、ゲノムの適合性なんかと比べればちっとも理にかなっていない。でもその分、かえってまともなような気もしている。
「・・・ハイネはすごいね」
やがて発せられた彼女の言葉がどこかさみしげに聞こえたのは、なぜなのか。
俺はあいつと最後に話せなかったことを早速後悔し始めていた。
 
 
 
 
彼の戦死の知らせを受けたのは、それからすぐのことだ。