撃つのが好きなのかと訊かれた。理由を尋ねると、普段より活き活きしてるから、と至極当然のような返事が返ってきた。そう言われるとわたし自身、そんな気になってくるから不思議だ。
シャワールームから出てから、自動販売機でコーラを買って部屋に持って帰った。アカデミーでは普通部屋は二人で使うのだけれど、わたしは一人部屋だった。最初はちゃんと二人部屋だったのだけれど、ルームメイトはある日突然いなくなった。
『軍人になるのはやめて結婚するの』
そう言って微笑んでいた。わたしはおめでとうと言い、彼女はありがとうと言い、餞別に小さなブローチを残して去って行った。薔薇の花びらが彫ってある、可愛らしいアンティーク。わたしはそれを机の隅に飾った。そうしてわたしはこの部屋をひとりで使うことになった。
彼女はいいルームメイトだった。どれくらいよかったのか説明できないほどよかった。それくらいしっくり馴染んでいた。そんな彼女だからきっと今もどこかでしっくりやっているのだろう。わたしはといえば、そういう幸せもあるんだなとぼんやり思った程度だった。
誰もいない暗い部屋にライトをつけて、窓際でコーラを飲む。暑かったので窓を開けると、風が濡れた髪を揺らしていい気持ちになってくる。窓の外で光がチカチカと点滅した。わたしの部屋の窓は駐車場に面していたので間違いなく車のライトだろうと知れたけれど、こんな夜に車が入るのはあまりないことだった。なんとはなしにそちらの方に目をやると、アカデミー生が何人か集まって車に乗り込んでいるところだった。
彼らが何をしに市街地に行くのか、想像に難くない。というより、そういうことをする輩がいるというのは結構前に噂で聞いていた。聞いてはいたけれど、実際に見たのはこれが初めてだった。わたしは少しびっくりしていた。規則違反という言葉は勿論意識をかすめたけれど、別に反しているからといって、やらない人がいるとも限らないのだ。告げ口をしよういうアイディアはほんの少しも浮かばかなった。そもそも噂が流れている時点でそこに暗黙の了解があることを示している気がする。全員が乗り込み終えたらしく、車は音もなく発進した。(車の定員分、ちょうど5人乗り込んでいた)わたしはバックライトが市街地の方へ消えて見えなくなるまでずっと見守っていた。警備員に見つかってしまえばいいのにと思った。だが彼らはなんなく市街地へ消えた。その中には燃えるようなオレンジの髪をもつ彼の姿もあった。クラスメートなのだけれど、今日初めて口をきいた。
わたしはふと思い出す。シュミレータの直後、開口一番彼に訊かれた、撃つのが好きなのかということ。それは少し違っている気がする。
たとえば、愛せざるをえなかった関係を愛とは呼ばない。それとよく似ている。